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更新日 2018-07-27 | 作成日 2018-07-27

子どもの絵の見かた

 石狩造形教育連盟では毎年「石狩管内教育美術展」を開催しています。2004年から「子どもの絵の見かた」を会場に掲示しました。以下にその全文を紹介させていただきます。
 さらに2006年からは、パンフレットを印刷し会場にて配布するようにしました。
 なお、ここに掲げた文章は、毎年少しづつ修正を加えています。さらにわかりやすいものにしていきたいと思っています。

LinkIcon石狩管内教育美術展

子どもの絵を鑑賞されるにあたって

石狩造形教育連盟(2004年)

 
 この作品展では、子どもの作品の素晴らしさをより深く味わっていただくために、氏名票に作者の言葉も添えています。
子どもの「思い」を感じとっていただければと思います。
また「子どもの作品の見方」についても解説させていただきました。ご鑑賞にお役立てください。
 私たちは、絵を描くことを通して子ども達が心豊かに育っていくことを願っています。

「だちょうのおやこ」幼稚園 年長 (2004年)
この作品は動物園にいったとき、だちょうの親子の姿を見て心惹かれたことを絵に描いています。
 大人から見て、のびのびしていて、素晴らしい絵というとらえかたよりも、だちょうの親子の姿に心惹かれた子どもの心優しさを、私たち大人は感じとることを大事にしたいものです。この絵は勢いがあり、一気にかきあげているようですが、ダチョウが柵で隠れないように、筆の流れをピタリと止めています。

《子どもの絵の見方》

 絵に表現するということは、本来、自由で楽しいものです。ですから筆や絵の具だけではなく、いろいろなものを用いて、心の中にあることを表したり、伝えたりすることができるようになれば、表現の本当の喜びを味わえることでしょう。

以下に、簡単ではありますが、子供の表現の特徴と絵の見方についてまとめてみましたので、鑑賞の参考にしていただければと思います。

幼児

 1歳から3歳くらいまでは、なぐりがきの時期といわれています。2歳をすぎてからはなぐりがきに あとから意味をつけたり、描く前から意味を持たせたなぐりがきをするようになります。
 4,5歳になると言葉の発達とともに、内容を持った表現としての絵が描けるようになります。幼児の描いた絵は見ただけではわかりません。描いた子どもから聞くことによってわかってきます。ですから絵を通しての子どもとの対話(共感)がとても大切になってきます。それが表現する喜びの基本になっていきます。
 この時期の子どもの絵に大人の価値観を教えてはいけません。作品を描くという意識はないのですから「上手だね」という言葉ではなく、子どもの描いた絵に共感することこそ大事にしたいものです。
この時期は絵を描く環境がとくに大事だといえます。

小学校低学年

 小学校低学年では、ものの見方・感じ方が、主観的で表現することそのものに喜びを感じているといえます。ですから、この時期の作品は大人から見てうまいとか稚拙だとかでとらえるべきではありません。
 その子が自分なりに感じたもの、心の中にあるものをストレートに表しながら、描くことそのものに喜びを感じられる活動が大切になってきます。低学年の絵を見る時には、子どもから話を聞きながら見るということが大切です。そうすると、絵の中には、大人が考えもつかないような楽しいお話がたくさんつまっていることが気づくでしょう。この時期の子どもの絵はお話しです。絵を通して「あのね…」と言っているともいえます。

小学校中学年

 小学校中学年では、自己を主張するようになります。また手の巧緻性も発達します。
 表現活動においては画面を見つめて自分の思いをふくらませたり、色や形の組み合わせ,画面構成や制作の手順などを考えながら描くようになります。ものの前後の関係に気づいてきたり、形や色などを見えたようにかこうとするような意識が現れてきます。
 絵を見るときは、上手、下手といったことを問題にするのではなく、人と違った感じ方や表し方を見つけ、子どもの思いにこそ目を向けることが大切です。

小学校高学年

 小学校高学年になると、観察力が高まり、写実的に美しく表したいという傾向が強くなっていきます。自分の絵を客観視するようになることとあいまって思いどおりに表現できないと感じたり、友達の絵と比べて劣っているように感じたりして、自分の表現に自信を失う子も現れてきます。 
 勢い写実的な作品にあこがれますが、それだけではなく今までに獲得してきた自分なりの方法表現方法を生かしたり、工夫しながら自分なりの感じ方やとらえ方などを大事にした表現活動が大切になってきます。
ですから、絵を描く場合は、題材が大切です。対象を見てかく写生ばかりではなく、自分の夢や願いを含めて表現することを通して、自分の個性に気づき、自分に対して自信を持つようになっていきます。また、自信を持って表現に取り組めるようになれば、表現技術は自然と高まってくるものです。

中学校

 中学生になると、自己の存在をより意識するようになり、客観的な表現力の高まりに加え,自分なりの表現意図を明確に持てるようになります。自分の感じ方や考え方をもとに主題を大切にした表現を追求できます。
表現技術も高まり,多様な表現も可能となります。また鑑賞力の高まりから、様々な表現のよさを味わえるようにもなってきます。
表現を通して、自己を深く見つめられるようになります。
 これまで書いてきたように、絵とは子供たちがそれぞれの思いをもとに、自分の表現方法で表すということが基本となります。
 ですから、子供の絵を見るということは、他の子どもとの比較ではなく、子供がその絵の中に込めた思いや、伝えたいことは何だろう、あるいは楽しんでかいた様子や、いっしょうけんめい取り組んだ様子などを、それをかいた子どもに負けないように真剣に読み取ろうとすることにほかならないのです。
なお、それぞれの年齢での子どもの絵の特性は目安にすぎません。ここは強調させていただきたいと思います。大事な事は子どもの絵から子どもの思いを感じ取ることだと思います。
一人一人の感じかたや考え方は違います。そのことがストレートに出てくるのが絵です。その子だからこそ、描いた絵。子どもの絵は「今を生きている証」と言ってもよいでしょう。

 2010年4月 「子どもの絵の見方」(東洋館出版)が出版されました。
著書の奥村高明氏は、子どもの絵のギャラリートークを全国各地で開催しながら、子どもの絵を通して、子どもの絵の見方を広めています。
 非常にわかりやすく書かれています。


LinkIconamazon 子どもの絵の見方―子どもの世界を鑑賞するまなざし

幼児画の読みとり心得

一、おもしろいなぁと思わぬ限り、変な絵です。

二、驚きの心のない限り、つまらないものです。

三、下手だなぁと見る限り、とても稚拙なものです。

四、人間ってすばらしいなぁと思わぬ限り、いたずらにしか見えません。

五、子どもの声をきこうとしない限り、絵からのメッセージはわかりません。

林 健造