1 関心・意欲・態度
楽しむ
・わくわくしてくる
・もっとやりたい!
・え?もうおしまい?
・はまった!
小さな子は描くことそのものを楽しむ。楽しむことを通してどんな力を育むか、学年に応じて楽しさの質を考えたい。
楽しさをうみだすために題材設定、題材との出会いの場面はとても大切。
また、描いた絵について共感される実感は、自己肯定感を育み、描くことの楽しさや喜びを生み出す。特に幼児期や小学校低学年くらいまでは子どもの絵は「子どもの言葉」であり、「あのね、」を受けとめる大人(教師や保護者)の「受信」はとてもとても大切である。学年が進むにつれて直接的な「あのね、」は出てこなくなるが、それは年齢が進もうとも基本的には同じで、今度は級友が「あのね」を理解しあうことが大事になってくる。
「子どもは芸術家である。」というとらえ方もあるが、「絵はお話、絵は心の窓」ということを忘れてはならない。
なお、中学生以降では真剣に取り組んでこそ得られる「楽しさ・おもしろさ」が大切になってくる。
▼「先生!できました!」
→「じゃ、そこに置いといて」
→「どれどれ、では、ここは、こうしなさい。」
→「もっとていねいにやりなさい。バックもちゃんと塗りなさい」
追求する
・こうしたい!
・苦労したけどやったなあ!
・もっといいものにしたい。
★
子どもが課題意識を持って、どうしても実現させたいと思ったとき、子どもの中に「こうしたい!」が生まれる。
大人の目には、それが「こだわり」と見えたりする。
これは、よりよいものを目指す意識のあらわれ。
特に中学生・高校生ではこの「追求」を大事にしたい。何より、彼らにとって題材に取り組むことに「価値を感じる」ものにしたい。
追究の結果、その手応えはも大きなものとなる。追究があってこそ達成感が生まれる。
つなげる
・あ、あの方法が使えそう
学んだことを他に生かしていく力。生きてはたらく力。
「つなげる」力は実は教師にこそ求められる力。
各題材で育んだ心や力を他題材(さらに他教科、他領域、)や他教科、日常生活ともつなげるように工夫したい。
つなげる力を生み出すためにも教育課程の編成は重要である。
授業のあとの「ふりかえり」は子ども自らが、自分の学びについて再度考えることでもある。この積み重ねは、子どもが学びをつなげる力を育てていく。
2 発想・構想の力
広げる
・この形、○○みたい!
・あ、いいこと考えた
・もっと違うこと考えてみよう
発想する力とは、言い換えると、自分の感じ方や考えを広げていく力でもある。これは幼児期の「見立て」などはからはじまる。
教師の投げかけや、用意した環境、あるいは鑑賞によって(逆に狭めることもある)発想が広がっていく。
造形遊びの積み重ねは中学校で開花する。授業の中で子どもが出す答えは一つではなく、子どもの数だけある。子どもの発想をより豊かに広げるためにも、題材との出会いの場面も工夫したい。
深める
・あ、そうだ、こうしてみよう
・こんな方法はどうかな
・もっとかっこよくしたい。
★
構想する力を育てるために必要な力。
思いついた数々のアイディアをもとにしながら、「もっとよくするには、どうしたらいいだろう?」と、考えを深めていく。
「ひらめき」や「思いつき」を、深めてよりよいものにしようとする。
特に中学・高校では大事になってくる。
見通す
・こういう順序で進めていけばいいんだな
・やった!設計図完成!
★
完成をイメージしながら、それにそって見通しを持って制作に取り組む。仕事の段取りや手順を考えることも見通しを持つことである。
ただし、全ての表現活動が見通しを持ってなされているわけではない。むしろ見通しがない中での表現の活動のおもしろさもある。描きながらどんどん変わっていく「つくり、つくりかえる」おもしろさもある。
3 つくりあげる力
比べる
・あれ?目が大きくなりすぎたみたい。
・ここはどうしたらもっとそっくりになるのかなあ。
★
日本では一般的には10歳前後から生まれてくる「ホンモノみたいに描いてみたい」という欲求(個人差が、大きい)が生まれてくる。
これに対し、教師として、どう支援していくか、シンプルかつ効果的なのは、「比べる力」を育てることである。
色や形を客観的にとらえるときに頭の中では、形の位置や大きさ、角度の違い、あるいは色の微妙な違いなど様々な比較がなされている。表現活動の中での知的な活動である。
(長さ、量、明暗などを)「比べる」ことの繰り返しによって、客観的な表現が出来るようになっていく。
選び、決める
・どの色にしたらいいかな
・完成にしようか、どうしよう?
授業の中で「選択意思決定場面」を豊富に用意したい。
それは学びを主体的にしていき、その子らしさ(その子自身)をつくりだしていくことにつながる。
表現は様々な価値葛藤をしていく中で、選び、決める連続によて成り立っているともいえる。
これは、よりよく生きていこうとすることにつながる。
バランスをとる
・ここの色が強すぎるみたいだ
・どうも、この部分が物足りないなあ
★
かいた形、構図、色彩のなどの調和を生み出すためにバランスが大切である。
美を追求するとき「統一と変化」や「全体と部分の関係」などが重要であると言われている。これは、言い換えると全体のバランス、調和の問題である。
この力は制作途中の作品を「はなれて見る」ことによって引き出しやすい。
(教師)「ちょっと、手をおいて、作品から離れて見てください。」
(子ども)(離れてみて)「あれ、何だか、ここが、大きすぎるみたいだ」「ここを直そう」。
教師から指摘されて形を直すのと子ども自らが気付き、自分で直すのとでは、学びの質は大きく違ってくる。「はなれて見る」ただ、それだけのことなのだが、非常に効果的である。
絵を作品として意識しだす中学年以降に有効である。
4 鑑賞の力
感じとる
・これをつくった人の気持ちや考えを想像したら、それがいかにすごいことであるかがわかりました。
・こんな身近なところにも美しさがあるんだな。
子どもの日常生活はさまざまなモノがあふれている。しかし、ややもすると消費社会の中に埋没し、流行に流されることもある。また身近な生活の中にあるよさや美しさに気がつかなかったりということもある。
鑑賞や表現などの豊かな体験の積み重ねが子どもの中の「感じとる」感性を鋭敏にしていく。
また長い年月をかけて受け継がれて来ている価値ある物もある。子どもにそのような価値あるものと出会わせる。そこに鑑賞の役割がある。
このような活動を通して価値観・美意識を更新していく。
名画や級友の作品だけが鑑賞の対象ではない。道ばたに咲いている花からも美を感じとるような感性を大事にし、より豊かに育てていきたい。
自己理解
・私は、この絵が好きだなあ、というのは…
・僕の絵はそんなよさがあったのか!
鑑賞の中で作品に対する自分の思いを語ることは結局は自分自身を語っていることでもある。鑑賞を通して「自分なりの見方」ができるようにしたい。
鑑賞の場面での級友の感想を通して新たな自分の価値を気づくこともある。こうしたことは自己肯定感を育むことにつながっていく。
教師の評価も大切である。
図工美術では出す答えは、自分の外にあるのではなく、自分の中にあるということも忘れてはならない。
他者理解
・作者の戦争に対する怒りを感じました。
・このデザインは使う人への優しさがあると気づきました。
・みんな違うっておもしろい!。みんないろんなことを考えているんだ
ここでいう他者理解とは作者に対す理解と鑑賞を通して知る級友への理解の二つがある。
美術はコミュニケーションのための優れたツールである。他者を理解する経験の積み重ねは美術のおもしろさを味わうとともに表現への意欲を生み出す。
対話による鑑賞の授業などでは、他者の感想を聞きながら自分の感じ方が深まったり、高まったりしていく。
さらに副産物として鑑賞活動を通して「言語能力」も高まる。
(「対話による鑑賞」などでは、自分が感じたこと、発見したことをどうしても級友に伝えたくてしかたがなくなる。だから伝えるためにことばを考えるようになる。)