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更新日 2018-07-27 | 作成日 2018-07-27

 研究が進むにしたがって、ここに述べさせていただいた内容は修正されていくこともあります。ご留意願います。

このページの最終更新 2008年5月18日

研究大会の目的

「研究大会の目的」

 学習指導要領改訂前、残念ながら「図工美術教育」の価値は低学力論のかげで、ほとんど注目されない状況にありました。美術教育界においては、すぐれた実践や研究が多数なされながら…。学校現場においても似たような状況にあります。

「図工の指導はよくわからない」「どう教えるの?」という先生が意外と多かったり、中学校(特に北海道においては)では免許外による指導も多いという実態もあります。

 さて、このような状況ですから、美術教育の研究団体として、教室で課題を抱えている先生方のために何かしなければならないと考えました。と同時に造形教育の持つ教育的な価値や魅力も伝えたいと考えました。

 そこで私たちは全道の先生に「図工美術の基礎が学べる研究会」と題した案内状を配付させていただくことにしました。
「美術教育支援」それがこの研究会を開催する大きな目的のひとつです。

 参加された先生方がこの研究会に触れることによって、子ども達が、より充実した図工・美術教育を受けることを願っています。
 また参加された図工・美術教育の専門の先生方と各地域で美術教育を活性化させていくための手だてを共に考えていきたいと思っています。

美術教育界での位置と研究主題 

「美術教育界での位置と研究主題」

この研究を進めるにあたり、石狩として確認したことがあります。論議を進めていくなかで、私たちが迷ったら、
Education For ArtなのかEducation Through Artなのか,どの位置に立っているかをを考えようという確認をしました。

 これまでの内外の研究から美術教育と言われるものは一般的にEducation For ArtとEducation Through Artの二つに分けることができると言われています。

 私たちは前者のForよりも後者のThroughを大事に考えています。
さらに造形教育に関するLearningについても考えていきたいとも思います。

図工・美術教育の目標

「図工・美術教育の目標」

 図工・美術教育界で「作品主義」という言葉があります。教師の仕事は「よい作品」をつくらせてこそ、という考え方です。
 図画工作・美術教育のその一つの成果として具体的な参考となる子どもの作品などがあります。
 例えば教科書の図版や展覧会の作品展の作品であったり、あるいはとなりの学級の作品であったりします。これまでの図工・美術教育は「どのようにしてよい作品をつくらせるか?」というところに目がいきがちでした。そうなると大人の目から見た「よい絵」「子どもらしい絵」を描かせる手段が必要になります。

 大事なことは優れた作品をつくらせることではなく、子どもが活動を通して学び、育つことにあります。

 「何をつくらせるか、何を描かせるか」ではなく「色と形と材」に関わりながら、「何を育てるか」ということが造形教育本来の目標です。
 ですから、ただ何もせず、放任しておくこととも違います。

 本研究では「豊かな心と確かな力を育む」ことを目標としました。

 ただし、ここでいう「確かな力」とは、立派な作品をつくるためという意味での「確かな力」では、ありません。「学習を通して身につけていくべき力」です。これを石狩では「育みたい力」として具体的示しました。

「授業何やる?」「どうやるべきなの?」
 素朴な問いに答える大会にしたい。
 
 

「育みたい力」を明確にし、「心を育てる題材」を用意する。
 
子どもと題材との出会いで意欲を引き出す。

子どもの思いや学びをしっかり受信していく。
 
これらを繰り返していくことで
 子どもの中に「豊かな心と確かな力」が育まれていく。
 
子どものために
 充実した環境や教育課程を準備することがその基礎となる。 

 

 

1、心を育てる題材

「心を育てる題材」


 「豊かな心を育てる」ために、もっとも大切なことが、どのような題材を設定するかということです。 

 石狩造形教育連盟では、その望ましい題材として「心を育てる題材」を提案しています。

 「心を育てる題材」は新たな題材開発するということではなく、既存の題材でも「心を育てる」題材とすることができるととらえています。ここが大事な点です。
 よくある題材でも設定の仕方によって子どもの学ぶ内容も意欲もまるで違ったものになります。
 中学校の自画像等はその設定理由により、子どもの学ぶ内容がまったく違うということがよくあります。

 題材設定の理由を本気で考えたいものです。そしてこの心を育てる題材の中で「育みたい力」が育つようにします。

 なお望ましい題材のあり方については北海道造形教育連盟の提案している「ひと」「こと」「もの」との「出会い」を大事にするという視点が、大事なポイントになるはずです。
 つまり「ひと」「こと」「もの」を切り口に「心を育てる」題材を考えると非常にわかりやすくなると思います。

そして、その題材は目の前の子どもがいて成り立つものであるということが大前提です。

「描かされる絵」と「描く絵」は違います。

2,育みたい力

「育みたい力」

 学習指導要領での教科の目標は4観点で示されています。
 石狩ではこの4観点で示されている力を高めるための「核となる具体的な力」を「育みたい力」としました。

ここにあげた「育みたい力」は、1995年に発表した石狩の研究(基礎基本ABC)をベースに多数の研究や実践の中から知恵を集め、まとめあげたものです。美術教育の目標に照らした場合、ここにあげた力が全てではありませんが、特に大事な考え方を厳選しました。
 なお、どの学年でもどの題材でもここにあげた力を全て網羅するということではありません。
  育みたい力は、4つに大別していますが、あくまでも目安です。これらの「育みたい力」は切り離された概念ではなく密接に関連しあっているからです。

 育みたい力が核となり、関連しあいながら資質や能力を高め、豊かな心と確かな力を育んでいくことにつながっていきます。
 なお、この育みたい力は教えるということもありますが、体験を通し、くりかえしていく中で育まれていきます

 さてこの研究では、「育みたい力」を、より具体化して考えるために「子どもの言葉」を例として示しています。これらの言葉は子どもの主体的な意思が働いているときに出てくる言葉です。これは育みたい力が具体的に育っている様子を示しています。

 この研究は「育みたい力」がどう育っているのか、子どもの姿から(子どもの頭や心の中で何がおこっているのか)評価してみようとする提案でもあります。

 (なお、子どもは教師の想定した目標を超えて、さらに素晴らしいものを生み出すことが多々あります。)

 最近の授業研究では、子どもの活動の様子をビデオや写真、行動観察記録をもとに検証することも行われるようになってきました。「どのような作品か、ではなく、何が育っているのか」ということが大事だからです。

この「育みたい力」は「生き生きしていた。熱心にやっていた。」という見方を具体的にしたものでもあります。
 つまり、「子どもの心や頭の中で何が起こっているのか」を想定しています。
 また子どもの絵をもとにしたギャラリートークなどは、絵を通して子どもの姿、学びを知る、考える場でもあります。



3、題材との出会い

「題材との出会い」


 題材を子ども達にどう提示するか、これはとても大事なことです。
 どんなに栄養豊富な料理であっても食べてもらえないことには…

 子どもが題材と出会った場面で、
「やってみたい!」「こうしてみたい!」「やる価値がありそうだ」
というように子どもの強い意思を引きだせたら
 その授業は半分は成功したようなもの。

 子どもは意欲的に活動していきます。子どもの中に表現したいという気持ちが強いからです。

 子どもと題材との「出会い」をどう工夫するか。
 授業づくりの醍醐味でもあります。

4、教師の受信

「教師の受信」

 小さな子どもの絵は「心の窓」「子どものお話」「あのね…」などとも言われています。しかし、基本的には学年が進んでも同じです。


子どもの発信を受けとめる教師の感性も高めたいものです。教師のこの感性をみがけば、授業はよりおもしろくなります。

 子どもに絵を描かせていて、教師は内職?とんでもない!
 目の前で子どもは素晴らしいことを思い、考えている、その子らしさが見えてくるでしょう。
 子どもを理解するためにも図工美術の時間は教師にとっても貴重な時間です。子どもの作品は生きている証ともいえるのですから。

 そしてもっと大事なことは、子どもの制作過程の中でたくさん見えてきます。子どもの目の動きやしぐさ、つぶやき、などから子どもの学びを見ていると教師にすべきことが見えてきます。

 図工の時間が学級経営につながるとよく言われますが、これは図工・美術の授業の中で「共感する、受容する」ということもその一つの要因でしょう。

 このようなことが、美術教育は人間形成に大きく貢献すると言われるゆえんでしょう。

5、教育課程

「教育課程」


指導計画づくりでは、子どもの発達特性を踏まえておくことが必要です。

 ただし、発達特性にしばられすぎることは新たな弊害を生みます。目の前の子どもを「発達特性」というフィルターを通して見てしまうからです。
「発達段階」とも言われることも多いですが、これまでの理論では「発達段階」の最終段階が写実的な表現をモノサシにしているという限界があるということも押さえておきたいことです。

 教育課程を編成するということは「題材」を設定していくということでもあります。それぞれ題材は切り離して考えるのではなく、題材どうしが密接につながるように組んでいくことで、教育効果はより高まります。

 つまり題材と題材をどうつなげていくかということです。

LinkIcon子どもの絵の見方(発達特性を踏まえながら)

6、環境

「環境」

「環境が人間をつくる」という言葉があります。

 しかし意外と語られていないのがこの「環境」です。

環境がこどもを育てるということは、幼稚園で使われる「環境の構成」という考え方から学びたいことです。

 環境には人とモノがあります。

 この環境づくりが、実に重要であることから、本研究大会の指導案に「環境の構成」という項目を入れてあります。

 また非常に充実した例として北広島市の大地太陽幼稚園の環境づくりがあります。